自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、遺言者が**全文を自筆(手書き)**で書いた遺言書です。費用がかからず、1人で作成できる最も手軽な形式の遺言書です。
ただし、民法が定める書式要件を1つでも満たさないと無効になります。2019年からは財産目録のみパソコン作成・通帳コピーも可能になりましたが、本文は必ず手書きです。
自筆証書遺言の必須要件(書式)
| 要件 | 内容 | |------|------| | 全文自書 | 本文全体を手書きで記載(財産目録はPC可) | | 日付の記載 | 年・月・日まで具体的に(「吉日」は無効) | | 氏名の自書 | 戸籍上の氏名を自筆で署名 | | 印鑑の押印 | 実印が望ましいが認印も有効 |
財産目録をパソコンで作成する場合や通帳・登記簿コピーを添付する場合は、各ページに署名・押印が必要です。
よくある無効パターン10選
- 日付が不完全(「2026年吉日」「令和8年3月」など日が不明)
- 代筆・ワープロ打ちの本文(財産目録以外)
- 署名がない・戸籍上の氏名と異なる
- 押印がない
- 財産の特定が不十分(「不動産を長男に」→どの不動産か不明)
- 相続人の特定が不明確(「長男に」→同姓同名の長男が2人いる場合等)
- 共同遺言(夫婦2人の名前で1通の遺言書を作成→民法上禁止)
- 封筒に書いた遺言(封筒自体ではなく、中の用紙に記載すれば有効)
- コピー・写し(原本が必要)
- 内容の訂正が正しくない(訂正方法の書式ルールあり)
正しい書き方の例
遺言書
私(○○太郎)は、下記のとおり遺言する。
第1条 次の不動産を長男○○一郎(昭和○○年○月○日生)に相続させる。
土地:東京都○○区○○町○丁目○番○号
家屋:東京都○○区○○町○丁目○番○号 家屋番号○番
第2条 ○○銀行○○支店の普通預金(口座番号XXXXXXXX)を
次女○○花子(昭和○○年○月○日生)に相続させる。
第3条 上記以外の財産はすべて配偶者○○幸子に相続させる。
第4条 遺言執行者として次の者を指定する。
東京都○○区○○町○丁目○番○号
司法書士 △△△△
令和○年○月○日
東京都○○区○○町○丁目○番○号
○○太郎 ㊞
法務局の自筆証書遺言書保管制度
2020年7月から開始した制度で、自筆証書遺言を法務局(遺言書保管所)に預けることができます。
メリット
- 検認が不要(家庭裁判所での手続きが省略可能)
- 紛失・改ざんのリスクがない
- 相続人が保管の有無を照会できる(「遺言書保管事実証明書」)
- 画像データで保存されるため保存状態の心配なし
デメリット・注意点
- 公証役場による内容チェックはない(書式不備があれば保管申請時に指摘されるが、内容の適法性は確認されない)
- 法務局での書式確認は形式面のみ(内容の有効性は保証されない)
申請手順と費用
- 事前確認: 最寄りの法務局(遺言書保管所)に確認(管轄は遺言者の住所地・本籍地・所有不動産の所在地の法務局)
- 予約: 法務局の予約システムで申請日時を予約
- 持参書類:
- 自筆証書遺言(A4サイズ推奨、左右上下に余白必要)
- 住民票の写し(3ヶ月以内)
- 本人確認書類(運転免許証・マイナンバーカード等)
- 手数料: 1件3,900円(1回きり)
- 受け取り: 保管証が交付される
申請時の注意
申請は必ず本人が出頭(代理不可)。体が不自由で出頭できない場合は、公正証書遺言の検討をおすすめします。
自筆証書 vs 公正証書の選び方
| 重視する点 | 推奨形式 | |---------|--------| | 費用を抑えたい | 自筆証書(法務局保管で検認も不要) | | 内容の確実性を最優先 | 公正証書遺言 | | 認知症リスクがある(近い将来) | 公正証書遺言(早めに) | | 財産が少ない・シンプルな内容 | 自筆証書遺言(法務局保管) | | 複雑な財産構成・会社経営 | 公正証書遺言 |
Q1: 遺言書の内容を後から変更したい場合はどうすればいいですか?
A1: 遺言書の全部または一部を変更・撤回することはいつでも自由にできます。方法は「新しい遺言書を作成する」ことです(新しい遺言が古い遺言に優先します)。内容の一部を訂正する場合は、訂正箇所に二重線を引き、欄外に「○行目を〇〇に訂正する」と書いて署名・押印する方法もありますが、書式を間違えると無効になりやすいため、全文を書き直すほうが安全です。
Q2: 遺言書は何枚に分けて書いてもいいですか?
A2: 複数枚に分けて書いても有効です。ただし、各ページが一体であることを示すために「割り印(契印)」を押すか、ページ番号を記載することをおすすめします。また、全体が1通の遺言書であることが明確になるよう、封筒に入れてまとめて封印(封筒にも署名・押印)するとよりよいでしょう。
Q3: 法務局に預けた遺言書は、亡くなった後どうやって発見されますか?
A3: 相続人・受遺者・遺言執行者は、法務局に対して「遺言書保管事実証明書」(遺言書が保管されているかどうかの証明書)や「遺言書情報証明書」(遺言書の内容の証明書)を申請できます。また、法務局は相続開始通知(遺言者の死亡)を知った場合、遺言書で指定された相続人等に通知する制度もあります。遺言書を預けたことを信頼できる家族に伝えておくと、よりスムーズに手続きが進みます。